アロマティック
 でも本当は逃げ出したい。いますぐいやだと首を振って断ってしまいたい。

「凌にとっては美味しすぎる展開じゃない?」

 返事をためらっているみのりに、誰に話しかけるわけでもなく天音が呟いた。

「もしかしたら、裏で糸を引いてるのかも」

 空が可能性を指摘する。
 わたしを引っ張り出すために、凌がスタッフを買収?
 そこまでするとは思えない。というより、思いたくなかった。
 凌は真っ直ぐなひとだった。最後に裏切られるまでは。

「わたし、いってくるよ」

「だめだ」

 みのりの答えがわかっていたかのように、永遠が即拒絶する。

「わたしで役にたてるなら協力しなくちゃ」

 みのりの肩を掴む永遠の手に力がこもる。

「だめだ」

「本当は永遠くんもわかってるはずだよ」

 みのりの発言に静まり返る。
 皆、本当はわかっているのだ。断れないことを。

「大丈夫だよ。仕事で行くんだから。凌に会うために行くわけじゃないんだから」

 不安で揺らぎそうになる声に、心で渇を入れる。
 みのりの心情を察した永遠が、彼女から離れ、壁に拳を打ち付けて当たる。

「なんでみのりなんだ……!」

 重い音が響き、みのりが慌てて駆け寄り、

「なに考えてるの!? 怪我したら困るでしょ」

 赤くなりつつある永遠の手を取って、気遣わしげにそっと撫でる。
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