アロマティック
 なに考えているかって?
 みのり、お前のことだけだ。永遠は心で答える。
 気丈に振る舞ってはいるが、不安が顔に出ているのを完全に隠せていない。
 俺の手を撫でるみのりの指先は、緊張で冷たい。
 凌は、それだけみのりに影響力があるのだ。
 ましてや相手はみのりの彼氏だったこともある男。
 いい意味での影響力ではないとわかっているのに、心は勝手に不安と嫉妬を感じている。

「現場の雰囲気を知ってるのはみのりちゃんだから、やりやすいんだろうね」

 聖がため息と共に呟く。

「俺も行く」

「仕事があるだろ」

 永遠がそういうのをわかっていた朝陽が落ち着け、となだめにかかる。

「凌と会わせたくない」

「同じ気持ちだよ」

 いままでずっと守ってきたみのりを、ひとりにさせてしまうことへの不安感は皆、一緒だった。

 みのりは、大きくてキレイな永遠の手が赤くなってしまったことに胸が痛んだ。
 たいした傷にはなっていないけど、腫れている。表面に傷がないのを確かめたみのりは、いてもたってもいられなくて行動に出た。
 アロマ基材の入ったトランクから、応急処置用にラベンダーとペパーミントを取り出し、永遠の手を取ると給湯室へ連れ出した。
 洗面器に水道水を用意し、ラベンダーとペパーミントを数滴たらしたところにハンドタオルを浸し、絞ったそのタオルを永遠の患部に当てる。
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