アロマティック
「おはようございます! よろしくお願いします」

 聞きなれた、落ち着いた凌の声が現場に響きわたる。開け放したお店の入り口から、すらりとした長身の凌が入ってきた。
 いよいよそのときが来た。みのりは観念するようにサンキャッチーに触れていた手を離した。
 後ろを振り向かなくてもわかる、凌の存在感。

「みのり」

 凌の切望が入り混じった声が体に絡み付いてくる。足音が迫り、

「近づかないで」

 凌に聞こえるように小声で止める。振り返ると、2歩先にドラマの衣装を着た凌が立っていた。大きさの違うふたりが一定の距離を保ったまま向き合う。

「今日は、代打で来てくれてありがとう。助かるよ」

 みのりに拒否され、ひきつりながらも凌は笑顔を作った。

「わたしでも必要とされているなら、協力しようと思ったから」

 周りのスタッフに変に思われために、みのりも笑顔で応える。

「俺がみのりを求めていることには、反応しないのに」

 永遠に勇気をわけてもらったわたしは、そんな言葉に揺さぶられはしない。
 みのりは答えるのを避け、凌の呟きは聞こえないふりをした。しかし、そう簡単に凌は引き下がらなかった。
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