アロマティック
「ゆっくり話しがしたい」

「話すことはないって何度もいってるでしょ」

「ぼくは、ちゃんと話しをするまで諦めない」

「わたしは仕事をしにきたの。紳士的にふるまって」

 近づこうとする凌から、一歩下がる。

「永遠さんといるときみたいにしたほうがいい。撮影スタッフが周りにたくさんいるんだ。わかるだろ? 変な動きをしたら目につく」

 小声で注意をされ、周りの様子をうかがう。確かに撮影スタッフや関係者がたくさんいて、開けたままのお店の入り口は慌ただしく人が出入りしている。ここは凌のいう通り、無難に切り抜けたほうがいい。

「どうしてそんなに避けるのかわからない」

 うんざりしたようにため息をつく凌が癪に障った。

「わからない?」

 理由をいったはずなのに、わからない?
 信じられない。
 頭をなぐり付けて思い出させてやりたいくらいだ。

「たった1度の過ちがそんなに悪いのか?」

 凌は、1度謝ればそれでリセットされると考えている。どうしてそこまでみのりがこだわるのか、わからないようだ。

「その1度の過ちで、どれだけ傷ついたかわかる?」

 誰よりも好きな人に、あんな形で裏切られて許せると思っているのだろうか?
 浮気をしていると人づて聞いたのではなく、この目で現場を見たのだ。

「じゃあ聞くけど、わたしが同じことをしていたとしたら、それでも許せるの?」
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