アロマティック
 みのりを覆うような大きな体躯。まるで恐ろしい巨人に道を阻まれているようで、次の一手が浮かばなかった。
 緊迫した空気がふたりを包む。
 緊張から握りしめた手が汗ばんできた。手に持っていたものが滑りそうになって、唯一の助けを呼ぶスマホがあったことを思い出す。
 でも、どうやって使えば……?
 メールを打つ暇なんてない。電話をしたところで話す余裕なんてない。
 だいたい誰に電話をすればいいの?
 悩んでる暇はない。みのりは電源ボタンを押した。
 暗い部屋にスマホの画面が光る。

「なにしてるんだ!?」

 気づいた凌が、即座に奪いにかかる。

「やっ……!」

 身をよじり、凌の手を交わして震える指をスマホに滑らせた。
 誰でもいい履歴から電話をかける。お願い、誰かつながって! 異変に気づいて……!

「こっちへ渡せ!」

「やだっ」

 手首を掴まれ、のしかかってきた凌の重みでそのままフローリングの床に押し倒される。
 頭がぶつかる重い音が響き、衝撃で一瞬呼吸が出来なくなった。意識が朦朧としたみのりは、必死に目を開けていようとまつ毛を震わせスマホを探す。手を離れたスマホは勢いよく回りながら棚の下に当たり、それを見届けた瞼が努力もむなしく、閉じられた。

 助けて。
 永遠……。
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