アロマティック
 帰宅途中の理花は、ヒールの音を響かせて夜道を歩いていた。
 街灯に加え、周りの住宅の窓から電気の光が届き、夜道もわりと明るい。
 どこからかスパイシーな匂いが漂ってくる。
 ふむふむ。
 さては今日の夕食はカレーね!
 顎をあげ、鼻をひくつかせているとお腹が鳴った。
 生活感のある、楽しげな声や、音楽、テレビの音が窓から聞こえてくると、ひとりじゃないことにどこかホッとする。

 夜ご飯はどうしようかなぁ?
 冷蔵庫にあるのは、生タマゴと牛乳くらい。
 いまから作るのもなんだかおっくうだ。
 コンビニで、お酒とお弁当でも……。

 理花が夕飯のことを考えていると、電話が鳴った。
 バッグからスマホを取りだし、発信者を確認すると幼馴染みからだ。
 コンビニへ向かう角を曲がり、歩きながら電話に出る。

「もしも~し、みのりちゃんっ」

 笑顔で出る。

「………」

 あれ?
 返事がない。


「もしも~し?」

「………」

 スマホの調子、悪いの?
 1度画面から顔を離し、電波の状況を見る。アンテナはフルに立っているから、感度は良好なはず。
 理花は首をかしげた。

「みのりちゃん?」

 問いかけ、スマホを耳に押しつける。
 相手の声が聞こえるはずの向こう側がやけに静かで、理花は足を止めた。

「みのり?」

 なにも言わない話し口に寒気を覚えた。嫌な予感がしてスマホを握りしめる。

「みのり、大丈夫!?  みのり!」

 何度も名前を繰り返し呼ぶ理花の声は、反応がないままむなしく辺りに響き渡った。
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