アロマティック
「理花ちゃん、落ち着いて。みのりがどうした?」

 落ち着け、といわれて理花は一呼吸置いた。早くなんとかしなきゃと急いていた気持ちが、僅かばかり和らぐ。

「みのりちゃんから電話が来たの。でも、電話に出てもなんにも反応なくて。折り返し電話してみたんだけれど、呼び出したまま反応がないの」

 理花の話すことを聞いているうちに、心臓を鷲掴みされたように体が叫びをあげた。
 電話をかけて反応がないのはおかしい。

「なにかよくないことが起こっていなければいいんだけど……」

「わかった。まだそんなに離れてないはずだから、様子を見に戻るよ」

 理花との電話を切ってすぐ、運転席のシートに身を乗り出した。

「マネージャー、いますぐみのりの家に戻ってくれ。なるべく早く」

「わかりました」

 バックミラー越しに頷いたマネージャーが、急ブレーキをかけ、ハンドルを回して車を回転させた。

 シートにもたれてゆったりと座っている場合ではない。みのりの家についたら飛び出していくつもりで身を起こし、助手席のシートを握りしめた。
 倒れたのか? それとも怪我をしたのか?
 なにがあった?
 こうしているっていまも、彼女が危険にさらされているのかもしれないと考えると、いてもたってもいられなかった。
 よくないことばかりが頭に浮かび、不安ばかりが永遠を襲う。
 みのり……!
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