アロマティック
 痛い。
 後頭部が痛み、あたたかい手が優しく撫でている。その手の主からは懐かしい匂いが……。

 ズキズキとした痛みに襲われて我慢が出来なくなったみのりは目を開けた。
 目を開けると、ぼやけた視界に覆い被さるような人影。その向こうに眩しい蛍光灯の光り。視点が合ってくると相手の姿形がハッキリしてきた。
 凌……。
 片方の膝を立て、そこに意識を失ったみのりを寄りかからせて彼女が倒れないように肩に手をかけ、後頭部を撫でていたようだ。

「大丈夫か? 痛くないか? ああ、気がついてよかった……!」

 倒れてしまったみのりに凌はオロオロし、彼女が意識を取り戻すのを見届けて、安堵している。
 目は覚めたものの、意識はまだ朦朧としていた。

「わたし……」

 体が思うように動かない。それに後頭部もガンガン痛む。

「倒れて後頭部を打ったんだ。ちょっとの間、気を失ってた。それに……たんこぶができてる」

 いいにくそうに、後半の言葉が小さくなった。

「冷やすものないか? 勝手に冷蔵庫開けるのはさすがにまずいから、とにかく意識が戻るまでそばで様子を見ていたんだ」

 みのりはふらふらしながらも、なんとか自力で座り込むと指をさした。

「冷蔵庫、そっち。冷凍庫は下。保冷剤入ってる。そう、それ」

 みのりのいう通りに凌が動き、冷凍庫を開けて保冷剤を持ってくる。
 靴は脱がされていて、凌も靴を脱いでいた。靴は玄関にキレイに揃えられていた。
 トートバックからタオルを取りだし、凌から受け取った保冷剤を包み、後頭部にあてる。
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