アロマティック
「つぅ……!」

 痛みに顔が歪む。凌がすぐとなりに来て正座で座り、みのりの顔色を見て心配そうにしている。

「ごめん。ぼくのやり方が間違っていた」

 痛みに疼く後頭部に顔をしかめながら顔をあげると、そこには肩を落とした凌が。うつ向き、反省の色を見せている。声も小さくて頼りなげで、どうやら本当に反省しているらしい。

「気を失ったみのりを見て、とんでもないことをしたって気づいたんだ」

「………」

 みのりは後頭部を冷すことに集中しながら、耳は凌の言葉にかたむけた。

「みのりと話がしたいのにいつも邪魔が入って、もどかしさが次第に苛々に変わっていったんだ。アロマティックの撮影が終わってしまったら、ますます会う機会はなくなる。焦ったぼくはこんな行動に出てしまった」

 確かに、ドラマの撮影が終わったあと、会うことなど考えていなかった。
 凌と会うのはこのドラマが最初で最後のつもりでいた。
 いつか話し合えばいいと思いながらも、このまま自然と離れていけたら―――心のどこかでそう考えていた。
 その結果、そこまで追い込んだのはわたしだ。

「わたしも悪かったんだと思う。いつも逃げることしか考えていなかったから」

 追いかけられていることが嫌だった。どこか狂気じみてて近づかれるのも、見つめられるのも嫌だった。
 でもいまここにいる凌は、落ち着いていてまともに話しが出来ている。鬼気迫ったような雰囲気は剥がれ落ち、澄んだ瞳をしていた。過去の凌がいるようだった。
 後頭部を打ち、痛い思いはしたけれど、凌に効果があったという点はよかったのかもしれない。
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