アロマティック
 言葉を探すみのりを、信じられない思いで凌は見つめていた。
 端から見ても、お互いを見つめる視線に気持ちがこもっているのがわかるくらい、熱い眼差しで見つめ合っているのに、心はまだ結びついてなかったのか。
 みのりにチャンスはないとハッキリいわれた。
 悪あがきも散々した。それでも……。

 そのとき。
 玄関先から慌ただしい音が聞こえ、その音がだんだん近づいてきた。
 凌はみのりの肩に手をかけた。

「みのり、最後だ。キスしよう」

「え? 凌――?」

 覆い被さるようにして迫る凌の顔に、みのりは戸惑った。一瞬そこに辛そうな表情がよぎったのだ。

 バンッ!
 大きな音をたてて玄関のドアが開く。

「みのり!」

 玄関に現れた永遠が見たのは、みのりに覆い被さるようにしてキスをしている凌の背中だった。

「凌、このっ……!」

 体躯の大きい凌を軽々と引き離し、

「永遠くん!? だめ、待って!」

 みのりの制止も聞かず、永遠は凌を殴った。凌の体がまるで人形のように軽々と吹っ飛ぶ。

「うっ……!」

 壁に背中を強打した凌が顔をしかめる。永遠は時間を与えず、そのまま胸ぐらを掴んだ。首が絞まり、凌の顔が次第に赤くなっていく。

「みのりになにした……!」

 急いでここまで辿り着いた永遠は、そのせいで息を乱してはいたが、落ち着いた声。けれど、いつにもましてその声は低音だった。静かな口調だからこそ余計凄味があり、背筋を冷たくさせる。

「みのりと、キスを」
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