アロマティック
 喉が詰まる苦しみに瞼を震わせながらも、凌は反抗的に真っ直ぐ永遠を見ている。
 みのりは凌の発言に驚いた。

「凌!? なにいって……」

 何を考えているの!?
 あのとき、凌の唇はわたしに触れていない。
 キスなんてしていないのに。
 嘘をついてまで、どうして永遠の怒りを買うようなことを!?

 壁に押しつけられた凌は、胸ぐらを掴まれたまま上へと押し上げられる。フローリングから足が浮かぶほど締め上げられ、顔が苦しげに歪む。赤くなっていた顔が今度は白く、血の気がなくなっていく。
 永遠を止めないと、大変なことになる。
 みのりは早くなんとかしなければと、ふらつきながら立ち上がり、とっさに動いた。

「永遠くん、だめ! 凌を離して!」

 後ろから広い背中に抱きつく。抱きついた背中は硬く強張り、熱かった。怒りに体が燃え上がっているのが伝わってくる。
 背中にみのりがしがみついても、永遠は手を緩めなかった。永遠の心臓がドクドクと早鐘を打ち、みのりに手を出した凌を許せないでいた。

「ぼくは……みのりを、愛してる、んだ……」

 首もとを締め上げられながら、掠れた声で凌は訴える。

「凌! やめてっ」

 これ以上、怒りを煽るようなことをしたら、どうなるかわからない。
 それに、永遠の背中にしがみついて止めても無駄だ。今度は後ろから横に回り、凌を締め上げる永遠の腕を掴んだ。

「永遠くん、離して。凌が苦しんでる!」
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