アロマティック
 みのりが止めても永遠は聞く耳を持たず、凌の口も止めらなかった。

「過去に傷つけてしまったぶん、今度こそ、それ以上の愛でみのりを守っていく……自信がある……!」

「みのりはついていかない」

「あなたに彼女を任せることはできない……!」

 男同士の言い合いは白熱し、壁に押しつけられた凌と、そこに迫る永遠が至近距離で睨み合う。この言い争いに終わりが見えない。
 みのりにはどうしたらやめさせられることができるのか、わからなかった。

「ぼくはどんなことをしても、みのりをさらっていく」

 青白い顔をした凌が、掠れた声ではっきりと己の意思を伝える。

「させるか」

 永遠のナイフのように鋭い言葉が、凌の声を切り裂く。

「ねぇ、本当にふたりとももうやめて!」

 みのりが止めに入っても、いまのふたりには彼女が見えていなかった。

「みのりに想いも伝えない男になにがいえますか!?」

「俺は俺なりに気持ちを伝えている!」

 永遠の気持ち?
 ドキリとしたみのりは動きを止め、永遠に注目した。凌も口を閉じ、永遠の次の言葉を待った。

「お前のせいで傷付いたみのりに、好きだといって避けられるのが怖くて、言葉にできなかったんだよ」

 永遠の口調は静かで、呟くように心を打ち明ける。凌を掴む腕は緩み、凌は自分の力で立ち、楽になった呼吸に首もとを押さえて咳き込んだ。

「男に対して過敏になっていることを知っているからこそ、これまで築いてきた関係が壊れるのが嫌だった。そのぶん、俺なりに愛情を示してきたつもりだ」
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