アロマティック
 ふたりきりになったみのりは、心配してくれる永遠に、かいがいしく世話をしてもらっていた。立ち上がるとフラつくみのりをそっとベッドに運び、保冷剤の固い部分が当たって痛くないように調節をしてくれた。いまは、ベッドの隣りに座り、横になったみのりの顔にかかる邪魔な髪を撫でて横に流してくれている。

「大丈夫か?」

「ん、大丈夫。まだ痛むけどね」

 みのりは苦笑いを返す。
 静かな部屋にふたりきりなのを意識して、なんだか気まずい。身体中のアンテナが永遠に向いて、髪に優しく触れる大きな手を意識して、そわそわと心が落ち着かない。

「明日、無理しなくていいぞ。体のが大事だ」

 そんなこといわないで。心配していってくれるのはわかるけど、少しでも永遠のそばにいたい。
 永遠の優しさが嬉しいと同時に寂しい。複雑な感情に小さく首を振った。

「少し時間が経てば大丈夫だと思う。腫れは引かないかもしれないけど、激しい運動するわけじゃないから」

「……腫れ、早く引くといいな」

 永遠は感情をあらわにしたあと、みのりとふたりきりでいるのが辛かった。
 ましてや、彼女の部屋にふたりきり。
 好きな女性。ベッド。邪魔物は誰もいない。
 どうしても意識してしまう。
 これ以上、余計な気を起こさないようみのりの髪から手を離し、膝の上に置いた拳を握りしめた。

「………」

「………」

 困った。会話が続かない。永遠は内心焦った。
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