アロマティック
 会話の糸口を見つけようと、みのりの部屋を見渡す。
 1Kの間取り。白と淡い黄色で統一されたシンプルながらも、女性らしい部屋。1つアロマ専用に置かれた棚があるところが、みのりらしい。
 普通、どこの家にもあるものが、ここにはなかった。

「本当にないんだな」

「え?」

「テレビ」

「あぁ……うん。無ければないで、その生活になれてしまえば別に不便とも思わないから」

「……俺の活躍見てほしいんだけど」

 ポツリと永遠が呟やき、そんな彼が可愛く思えてみのりは微笑む。

「そうだね。テレビ、そろそろ買おうかな」

 絶対、最新の綺麗で大きいやつ買ってやる。
 永遠は心に誓った。

「………」

「………」

 また沈黙だ。
 時計の針がカチカチいう音がやたら大きく感じる。
 横になって落ち着いたせいか、みのりの顔色も戻ってきた。永遠は、扇状に広がるまつげが頬に影を落とす様子を眺め、ふっくらとなだらかな丸みをおびた頬から、唇へと視線を移す。少し下がった口角は笑うと持ち上がって唇が魅力的な表情へ変化する。
 この唇に俺はキスしたんだ。
 いまもキスをしたい。触れたい。抱きたい。
 だめだ、我慢だ。
 みのりは今日、辛い思いをしているんだぞ。
 しかし、俺の気持ちを知ったみのりに、遠慮することないんじゃないか?
 いままでだってキスを嫌がることはなかった。
 ふたりきりという絶好の機会。手を伸ばせば触れられるところに彼女はいる。しかもベッドに。
 最高のシチュエーション。
 みのりの気持ちは聞いていないが、抱きたいといったら受け入れてくれるんじゃないか……?
 だめだ、こんなこと考えるのは。
 みのりは怪我もしている。今日はこのままそっとしておいてやるのが一番なのだ。
 理性と欲望がせめぎ合う。このままだと抑えているものが暴走しそうだ。

 俺からみのりを守るためにも、これ以上、ここにいられない。
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