アロマティック

つながる想い。共に見る未来。

「わたしが永遠くんに面会を求めた理由、わかるわね?」

 理花に、話したいことがあるから時間を作ってくれとメールで頼まれ、仕事が終わったあと、ふたりは事務所の会議室にいた。

「みのりのことだろ」

 疲れたように重いため息をつく永遠は、電灯が机を照らす静かな会議室の奥に進み、窓枠に寄りかかった。外はもう暗く、道を街灯が明るく照らし、向かいのビルから電気の明るい光が漏れ、働くひとの姿がときおり現れては消えた。

「みのりちゃん、精神的にだいぶきてるみたい」

 会議室の入口に立ち止まったままの理花が、顔をあげて永遠を見る。 留学を前に本当は夢と希望でいっぱいのはずのみのりが、日に日に落ち込む様子を見てきた。
 根が強いみのりが、相当まいっている。
 ちゃんとここでの問題を解決してからじゃないと、向こうに行っても勉強どころではないはずだ。
 あのまま、イギリスへ向かわせてはいけない。
 解決しなくちゃいけない問題は、目の前にいる。

 理花からの連絡にもあまり返信をしてこなかった永遠に、やっとのことで会う約束を取りつけたのだ。
 絶対、みのりに会わせてみせる。
 強い覚悟を持って、理花は永遠との面会に挑んだ。

「相談もなしに勝手に仕事を辞めて、海外へ行くことに、永遠くんは怒ってるんでしょう?」

「………」
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