アロマティック
 永遠は黙ったまま、横を向き外を見るふりをしている。
 理花ちゃんに俺の何がわかる?
 俺だって俺のことがわからないのに。
 仕事を辞めると聞いたときは、自分勝手だと攻め、頭に血が昇った。
 だが、海外へ行くためだと聞いたとき、その覚悟に尊敬の念を抱いた。
 しかし、相手はただの友人ではない。
 自分にとって誰よりも大事なひとなのだ。
 地方へ行くのとは訳が違う。何千キロも離れたイギリスへ行くのだ。
 これまで、どんなこともある程度は、相手に合わせてやってきた。
 だけど、今回ばかりは。
 顔を見たら、行ってこいといえる自信がない。
 今の俺は、自分からもみのりからも逃げている。

「もう知ってるはずだけど、みのりちゃんは学生の頃からひとりなの。ひとりで生きていかなくちゃいけなかったから、全部自分で考えて、決めて、生きてきたの。今回のことは、永遠くんに相談することもだいぶ悩んだっていってた……」

 私の力じゃ役不足で、みのりの役に立てることはほとんどなかった。
 自分の無力さにもどかしい思いをしてきた。
 でも、今回は違う。
 永遠くんが動かないというのなら、引っ張ってでも連れていく。

「永遠くんにわかってほしいのは、みのりちゃんがひとりで答えを出したことは、自分勝手なんかじゃないってこと。だって彼女は強くなるしか方法がなかったから。そうやって生きていくしかなかったんだもん」

「……わかってるよ。それに、理花ちゃんがいいたいことも、だいたいは予測ついてる」

「だったらなぜ会いに行ってあげないの!?」

 わかっていながらどうして!? 理花は責めるように詰め寄る。

「みのりに会わせる顔がない」

「どういうことなの?」

「いっそこのまま、顔を会わせず行かせた方が、みのりの為だと思う」
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