アロマティック
 したくもない妄想が、頭のなかで勝手に始まる。
 あの手が女性の肌を滑るようになぞって、うっとりした女性の口からは、甘いため息が……。

「みのりや~らしぃな~」

 妄想爆走の心のなかを読まれて飛び上がる。

「そっそそそんなことないっ」

 慌てて否定。首がもげそうなくらい必死になって左右に振った。

「じゃ、なに考えてたんだよ? 顔、真っ赤」

 みのりのほうに身を乗り出して、鼻先に指をさすとクックと楽しそうに笑う。

「握手のことだって。握手会でファンの子たちが喜んでくれた手ってことだよ」

 自分の顔の前にかざした手のひらを広げて感慨深そうに眺め、再びみのりを見ると、してやったりといった顔でニヤリ。

 なんだ。
 だったら最初からそういってくれたらいいのに。余計なこと考えちゃったよ、もう。
 みのりは面白くなかった。

「あー超楽しい!」

 みのりの慌てっぷりを楽しんで、手を叩いて笑っている。
 悔しい。まるで手のひらで転がされてるような気分だ。みのりは不愉快さを感じた。

「わたしはあなたのファンじゃありませんから」

 握手ごときで喜ぶわけがない。悔しさが込み上げてきたみのりは吐き捨てた。
 昨日まで「Earth」というアイドルグループに、こんな男がいたことも知らなかったのだ。もっとも知っていたからといって状況が変わっていたかと聞かれても、やはり変わってなかっただろうけど。
< 37 / 318 >

この作品をシェア

pagetop