アロマティック
｢理花と会うちょっと前、嫌な思いしたんだ。つか、ちょっとじゃないし。とんでもなく嫌な思いしたんだよ｣

　カバンの中を探って、理花と会う前に行った本屋で買ってきた専門書を手渡す。

｢嫌な思い？｣

　怪訝そうな表情を浮かべた理花は、受け取った本の表紙を裏表ひっくり返し、ページをめくって一言。

｢ん～なんだかずいぶんヨレヨレだねぇ。資格取るときに使ったの？　それとも古本屋さんの掘り出し物？｣

｢違う。さっき買ったばかり。新しいの｣

　険しい表情のみのりは、テーブルに頬づえをついて深くため息。

｢こんな状態の本、売ってるんだ～｣

　よく見ると、ページの端が大きく歪んで切れかかっているところがある。
　古本でもなかなかないんじゃない？　本の状態を確かめた理花が感心する。
イライラを振りきるように、テーブルに両手をついたみのりが勢いよく立ち上がる。

｢最初はね、この本だって状態よかったの！　それが……｣

　使い古した古本のようになってしまった経緯を、詳しく話そうとしたところで、とある声が後ろから飛び込んできた。

｢ちっこいくせに気が強い女でさ｣

　その声に、みのりの言葉が止まる。
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