アロマティック
 静かな和室にふたり。
 音の遮断された廊下からは、関係者が話す声や足音が小さく聞こえてくるのみ。
 お互いを意識したとき、ふたりの時は止まった。ふたりを取り巻く空気の色が変わる。
 相手の息づかいが聞こえてきそうなほど、永遠は近かった。
 みのりは永遠を気遣い、自ら無意識に彼に触れようとした自分の行動に驚いていた。

 永遠は、掴んだ手を離すことも忘れたまま、みのりを見つめ続けた。
 芸能界という世界に興味を示さない、俺を知らないひとりの女性。
 はじめて会ったあの日、容姿に惑わされることなく面と向かって俺を否定した、鋼のような心臓を持つみのり。
 はじめは物珍しさから側に置きたいと思った。
 そう、ただの好奇心。
 正直、否定されたことで、自分の使えるあらゆる力を使って、少し強引にでてしまったところもあったことは、認める。最初こそ不満そうだったみのりは、それでもついてきてくれた。
 媚びることも色目を使うこともなく、女の武器を一切使わず、自然に接してくる彼女は本当に新鮮で、一緒にいる時間が楽しいと気づくのに時間はかからなかった。
 アロマを扱うときに見せる真剣な眼差し、ときに見せる生き生きとした輝く笑顔。そこに演技も愛想笑いもない。
 嘘のない表情に引き寄せられる。
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