アロマティック
 そんなみのりには、触れてはならない部分がある。男が関わる話しになると、たちまち不機嫌になった。決して話したがらない過去と、どんな関係があるのか? 触れようとすると頑なに壁を作って、それ以上踏み込ませない。
 どうやらそこに、鋼の心臓にならざる負えなかった理由がありそうだ。
 みのりの過去に何があったのか?
 不思議なことに、彼女のことをもっと知りたいという欲求が、己のなかに芽生え始めていた。

「永遠、くん?」

 みのりの囁くような呼び掛けに、永遠は我に返る。困惑顔のみのりの視線をたどると、その細い腕を掴んだままだった。どうやらそのまま考え事をしていたようだ。
 みのりに触れていたい。
 率直な感情に、一瞬だけ掴んだ腕に力を込め、そっと離した。

「少し仮眠取ろっかな。特別オプション、ひとつよろしくー」

 正座を崩して楽な姿勢で座っていたみのりが口を開くまでもなく、腿の上に永遠の頭が乗ってきた。
 畳の上に長い体を伸ばして、あお向けに寝ころぶと、さっさと目を閉じてしまった。

「………」

 みのりには、一言も返す時間さえ与えられなかった。
 もう、しょうがないなぁ。
 ささやかな休憩時間、リラックスして寛ぐ永遠を見てしまったら、なにもいえないよ。みのりは抵抗を諦め、苦笑いを浮かべた。
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