白雪さんと7人の兄弟
リセの指は鍵盤の上を踊るように滑る。リセがどれだけ長い時間、この楽器と歩んできたのか伝わってくる。

「…すごい、」


私の頭の中の辞書のページが足りなさすぎて、そんな言葉でしかこの場を表現できない。

リセの音とともに、天星園で過ごした長い長い10年が走馬灯のように次から次へと浮かんでは消える。

リセと出会ったあの日。
リセは傷だらけの腕を隠すように、私に挨拶をしてくれた。
リセは自身の過去を頑なに話そうとはしなかったけれど、幼い私は薄々感づいていた。…でも、言おうとはしなかった。

その後にまるで人形のような容姿をした幼い紅音ちゃんが来て、昔は無口だった蓮、人見知りだった珠洲、そして三つ子が来て…。

気付いた時には、私の瞳は洪水を起こしていた。

ハンカチで押さえてもとどまることないそれは、制服のスカートに泉を生み出した。
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