私は確かに愛してしまった
詩唄。
とオーナー自慢の達筆な字で書かれたかごを持って告げられた部屋へ移動する。



ギシリギシリ。
リフォームに手を抜いた廊下は一歩足をすすめるたびに軋む。
これから行う行為に極似した音だ。

嫌気がさす。

溜め息を一つ、意を決して扉を開けると見慣れた顔が。




「やぁ、詩唄ちゃん。久々だね」
「下田さん、お久し振りです。会いたかったです」




ベッドに我がもの顔で腰掛ける中年男性。
私につく常連客の一人、下田さんだ。

私が部屋に入った瞬間にこりと笑う下田さんに私も微笑む。
他愛のない会話を交わし、下田さんの隣に腰掛ける。
偽物の笑みを浮かべながら。
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