I grumble to Christmas
「奥井さんこそ。彼氏が待ってるんじゃないの?」
中谷君。
君は私に喧嘩を売っているのですか?
さっきも言ったけど。
ボーナス出たんで、なんならその喧嘩、買いますけどっ!
「別れたから」
もうっ。
なんでこんな屈辱的なセリフを、言わなきゃならないのよ。
しかも、至る所で幸せが充満しているイブにっ。
イラっとする。
「俺もなんだよね」
……えっ?
今なんて言った?
あの可愛い彼女と、別れたっての?
マジかっ?
思わず凝視。
「相手がいないと、クリスマスイブなんて、虚しいだけだよなー」
中谷君のセリフに、思わず何度も縦に頷いていたら笑われた。
イヤイヤ、笑うところですか?
君も同じ穴の狢だからね。
「別れた者同士。どっか店入れたら、飲まない?」
別れた者同士って言うところ、余計だから。
「それとも、なにか予定あった?」
即答しない私の顔を、中谷君が覗き込む。
「別にないけど」
予定なんて、あるわけないし。
一人でケーキワンホール食べるくらいなら、中谷君に付き合ってあげるよ。
なんて、上から目線で思ってみても、誘われて嬉しいのがつい顔に出る。
寒さに硬くなる頬が緩むなんて、私どんだけ人恋しいのよ。
そんな私の顔を見た中谷君は、なんだか満足そうな笑み。
負けた気がするのは、どうしてだろう。
何と無く悔しい気持ちでいたら、不意に手を取られた。
「あそこの店、入れそうじゃんっ」
言ったと思ったら、手をつないだまま急に走り出す。
突然の事に驚きながら、走ってついて行く私の耳に中谷君が言った。
「彼氏がいないなら、もっとはやく誘えば良かった」
瞬間、正直すぎる心臓がキュンっと高鳴る。
なんなのよっ。
最高じゃないのよ、イブ。


