狂気の王と永遠の愛(接吻)をイメージ画集とつぶやきの場

アオイの想いⅠ

「…………」

(……仙水先生はすごく苦しかったんだ。気持ちが伝わらなくて、もどかしくて……きっとそれは私なんかが想像も出来ないくらい……)

美しい横顔に陰る悲しみの表情が嫌でもアオイの口を堅く閉ざす。それは会話の端々から伝わる悲痛な彼の叫びが、ただ事ではないのだと物語っているからだ。

(でも、ここで言わなきゃ仙水先生はもっと苦しむ……答えのないその記憶にずっと縛られてしまうっ……)

「せ、先生は"その人が何も選ばなかった"っておっしゃいましたけど……」

生意気だと思われてもいい。そう思いながら素直な気持ちを胸の中からゆっくり吐き出す。

「……えぇ」

仙水の視線は遠くを見つめながらもアオイの戯言にしっかり頷いてくれる。

「その方にとって、"全てが一番"だったからではないですか?」

アオイは"九条さん? と同じ意見になってしまいますけれど……"と小声で付け足す。

「……どうでしょうね。アオイさんはなぜそう思われるかお聞きしてもよろしいですか?」

こちらを振りかえった仙水はしっかりとアオイの瞳を見つめながら言葉を促す。

「はい……私は"好き"という気持ちに置き換えて考えてしまったんですけど……」

「もちろん、結構ですよ」

「……優劣をつける気持ちがそこにあるのなら選べないはずないし……、迷って選べなかったのは、やっぱりすべてが一番だからかなって……」

「…………アオイさん」

「はい」

「……それがアオイさんの"何も選ばなかった"の解釈ならば……」

「……?」

「……本当にそうだったのかもしれませんねっ……――」

仙水は懸命に微笑みながら震える腕を伸ばすと、アオイをゆっくりその胸に抱きしめる。

「…………」

震える仙水の背へ手を回し、痛いほどの胸の締め付けを感じながらアオイは思った。

(なんでその方は仙水先生を選ばなかったんだろう……やっぱり先生が王様だから……?)



そして仙水の部屋で強制的にキュリオをベッドへ縛り付けていたセシエルは……――

(……逆効果だったかな)

セシエルは決してアオイと仙水の仲を取り持とうとしたわけではない。むしろここで終わりにしてもらうための行動が裏目に出てしまったようだ。


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