恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜
「忙しいところを申し訳ないんだけど、1時間…30分でいいから森園の勉強を見てやってくれないかな…?」
そう依頼されて、石井はもう一度佳音の表情を確かめる。
佳音自身、石井に個別指導を受けることは想定外だったらしく、戸惑ったような顔で立ち尽くしている。
「うん、分かった…。森園さんのこと、私も気になってたのよ。少しだけお勉強して帰りましょ。…ちょっと待っててね」
とりあえず石井はそう答えたが、突然のことだったので当然何も準備はしていない。教科書や問題集を取り出して、準備を始める。
「それじゃ、森園…。しっかり勉強して、早く休んだ分を取り戻すんだぞ」
古庄が佳音の背中をたたいてそう言うと、佳音はとっさに古庄を見上げたが、すぐに視線を逸らして足元を見つめた。
その一瞬の佳音の目を見て、古庄は彼女の中にある悲しみを気取ってしまう。
佳音はお荷物になった自分を、石井に押し付けられたと思っている…。
自分は見捨てられたと思っている…。
彼女のガラス細工のような心を、どう扱っていいか古庄自身も分からなかったが、やはりこのままにはしておけない…。
昨日こそ、あんな風に佳音を傷つけておいて、その上また突き放すようなことはしたくない。