恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜
佳音が緊張して体を硬くしている間にも古庄の車は駐車場へと入っていき、促されるまま車を降ると、古庄の後についてアパートの階段を上がった。
古庄は自ら鍵を取り出してドアを開けることなく、インターホンを押す。すると、ものの数秒のうちに玄関のドアが開いた。
「おかえりなさい」
出てきたのは、満面の笑みの真琴――。
その瞬間、佳音は息を呑んで直立した。
真琴の方も、古庄の背後で固まる佳音に気が付いて、その笑みを消沈させた。
あまりの思いがけなさに、真琴は目を見開いて黙ったまま、その目で古庄に確認する。
「ただいま。…今日は森園を連れて来たよ。一緒に飯でも食べようかと思って…」
古庄はそう説明しただけだったが、真琴はその一瞬で古庄の意図を汲み取った。
そして、古庄に向けるのとは趣きの違う優しい表情で、佳音に微笑みかける。
「森園さん、いらっしゃい。狭苦しいところだけど、どうぞ」
真琴が佳音に声をかけると、古庄も振り向いて、真琴と共に佳音を部屋の中へと迎え入れた。
「森園は、我が古庄家に来てくれた最初のお客さんだよ」
何気ないその言葉が甘く清らかな滴となって、渇いてささくれだっていた佳音の心に沁みて潤していく。