最後の恋の始め方
 その後出国までの短い間に、僕は佑典といくらか話し合った。


 内容は理恵に伝えていないけれど。


 佑典はどういうわけか、非常に責任を感じていた。


 理恵のことを疑っていたのは事実だったし、後輩の子に酔った勢いとはいえ、理恵を傷つけるようなことを喋ってしまったから。


 そばに理恵がいるとも知らずに。


 僕も理恵と出会った経緯などを、佑典に説明した。


 その後親子の間での話し合いは、一人の女を共有してしまったという非常に複雑な事情ゆえ、言葉を選びながら手探りでしかできなかった……。


 「大した話じゃないよ。刃傷沙汰にもなってないし」


 一度尋ねられた際も、そうはぐらかした。


 そのまま佑典は赴任先へと旅立っていった。


 僕には一応親子関係が残っているからか、時折近況報告のメールが届くが、理恵には連絡はないらしい……。


 僕たちの関係に絶え間なく影を落とす、理恵のかつての彼氏の現在。


 僕の実の息子。


 ていうか理恵と佑典とはまだ、正確には別れたわけではない。


 今はただの「冷却期間」。


 いずれ佑典が再び理恵の前に現れたら、僕たちは……。


 「あいつは年末年始も、向こうに留まるらしい」


 不安をかき消すように、理恵に話しかけた。


 「え……」


 佑典は夏休みも帰国しなかった。


 「せっかくだからこの機会に、近隣の仏教遺跡巡りをしておきたいんだって」
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