最後の恋の始め方
 「だめです。そんなことしたら佑典の立場がなくなるし、和仁さんにも悪影響が」


 「そうなんだよね。悪いのは僕だから、自分のことはいいんだけど。佑典に、ね……」


 理恵から腕を放し、僕はそっとため息をついた。


 僕もそれだけは避けたかった。


 いくら互いの身を守るためとはいえ、秘密の暴露は影響が大きすぎる。


 佑典のプライドは傷つけてしまうし、理恵にも大きな犠牲を払わせてしまう。


 特に佑典に関しては、本人がいない所で本人の望まない事態を引き起こすのだけは避けたいと願った。


 「山室さんとは、このまま何事もなくいられたらいいのですが」


 「それは無理だよ。いずれ理恵は選択を余儀なくされる。僕か、あいつか。それとも佑典の時みたいに、あいつに隠れて僕とこういうこと続けるとでも……?」


 「和仁さん、」


 いつしかテレビを見るのも忘れて、理恵に挑発的に迫っていた。


 数え切れないキスは、少しずつ場所をずらして。


 重なった体は、ますます互いの奥深くを求めていく……。


 ……。


 理恵とあいつとの約束のディナーは、来週末。


 その時きっと理恵は、決断を急かせられるだろう。
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