最後の恋の始め方
 「私、山室さんが思ってるほど不幸じゃありません」


 見つめられるのが怖くて、背を向けた。


 「もうごまかさなくてもいいよ」


 山室さんは私を追うように、肩を掴んだ。


 「佑典の身勝手が原因で、理恵ちゃんが傷付き苦しんでいたのは知っている。そして中途半端な状況ゆえ、いまだに前に進めずにいることも」


 「山室さん、」


 「だけどもう十分に時は過ぎた。そろそろ新たな道に進むことを考えてもいいはずだ。


 佑典に破局の原因があると信じ込んでいる山室さんは、私に新しい未来を勧める。


 「佑典のことはゆっくり片を付けて。俺がついてるから」


 連休の真ん中のせいか、日曜の夜にしては人通りが多いようだ。


 通行人たちの中に知り合いが混ざっているような気がして、心配になる。


 「時間が経てば、過去のつらい記憶も徐々に薄れていく。時間がかかっても構わない。俺はいつまでも理恵ちゃんを見守っていくつもりだ」


 そして、


 「俺が忘れさせてやりたいから」


 耳元で囁かれ、そのまま後ろから抱きしめられそうになった。


 「だっ、だめです」


 危険を察知して、私は身を翻した。
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