最後の恋の始め方
 「来年のカレンダー、届けたいと思ってたし」


 山室さんの勤務先である銀行が、毎年発行しているポスターサイズのカレンダー。


 地元出身の有名な画家の作品が掲載されているので、毎年楽しみにしていたのだけど、今年はうっかりもらい忘れてしまった。


 先着順でしかも人気のあるグッズなので、気づいた時にはすでに品切れ。


 残念だった……などと先日飲んだ際につぶやいたら、山室さんは何とか在庫を探してみると言ってくれた。


 それを今日これから、届けてくれると。


 「解りました。いつくらいになりますか」


 和仁さんに勘付かれないよう、言葉を選んで応対する。


 「これから20分。天候悪化を考慮して、30分後くらいで大丈夫かな」


 和仁さんはもう間もなく出発予定。


 この調子だと山室さんの到着は、和仁さんの出発後になるので問題はなさそうだ。


 「では、それでお願いします」


 「じゃ30分後にね」


 一旦電話を切った。


 「誰? 友達?」


 電話を終えてすぐ、和仁さんが尋ねてきた。


 「はい。大学時代の先輩で、銀行に勤務している人です」


 「そう……。僕の高校時代の同級生にも一人、銀行に就職した女の子がいたな。銀行の窓口も華やかそうに見えて、結構大変なんだよね」


 和仁さんは私の電話の相手を、勝手に女の子だと思い込んだようだ。


 そのほうが都合いいので、黙っていた。
< 31 / 162 >

この作品をシェア

pagetop