最後の恋の始め方
 「……」


 和仁さんが眠りに落ちたのを確かめて、私はそっと体を離した。


 この夜はいつもとは比べ物にならないほど、強引に抱かれたような気がする。


 帰宅後若干の問答を経て、寝室に連れ込まれて……。


 奪うようなキス。


 押し倒されるようにベッドに引きずり込まれ、服を脱がされ。


 ……私が山室さんと、親しく交流しているから?


 こうやって


 私たちはいつもは、楽しむために幾度となく体を重ねてきたけれど。


 この夜は明らかに意味が違う。


 私が自分のものであることを、思い知らせるため?


 山室さんより自分のほうが上であると、見せ付けたかったから?


 「……」


 私はベッドから出た。


 タオルを羽織り、バスルームに入ってシャワーを浴びた。


 熱いお湯で全ての苦悩を、流し去ってしまうかのごとく。


 シャワーを終えて、タオルを巻いた体でキッチンへ向かう。


 出しっぱなしの野菜類にラップをかけて、冷蔵庫に入れた。


 だいぶ乾燥してしまったけど、食べられないこともなさそうなので、明日何とかしよう。


 それから寝室へと引き返す。


 どんなに憂鬱を抱えていても、私の戻る場所はここしかない。


 「あ」


 部屋の中がぼんやりと明るいことに気がついた。


 和仁さんがデスクの前で、パソコンに向かっていた。
< 58 / 162 >

この作品をシェア

pagetop