最後の恋の始め方
 「こっち向いて」


 どんなに言葉を尽くしても、理恵には全てを伝えきれないかもしれない。


 それならば今は、キスで理恵の心を癒してあげたい。


 僕は理恵の肩を掴み、背を向けた体をこちらに向けさせた。


 理恵は怖くて目を見つめられないようで、僕を避ける。


 目が合えば、考えていることを見抜かれてしまいそうで恐れているのかも。


 「私と奥さん、どっちが大切? なんて言いたくないけど言ってしまいそうで……。怖いのです」


 「勝手に悲観的な物思いに囚われないで」


 理恵を抱き寄せた。


 「僕が亡き妻と君とのどちらを愛しているか。二人のうち一人を選ぶとなったらどっちを選ぶか。……そんなことを考えて、理恵は寂しくなっている」


 枕元の電気スタンドの豆電球が点けられているため、理恵の憂鬱な表情がよく見える。


 「理恵」


 僕は腕を伸ばし、理恵を強く抱いた。


 「かつてはあの人を大切に感じていた。だけどもういない。あの人を失った時、モノクロームに染まった世界は永遠に変わらないと信じていた」


 「……」


 「この後の人生は写真家として生きること、そして佑典を育てることだけに集中しようと心に決めていた。もう誰も愛さないと誓って」


 「だとしたらなぜ、私にこんな……」
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