波音の回廊
 「労働者は、使い捨ての道具ではありません」


 清廉は強い口調で反論した。


 「そんな競争させたら、無理をして仕事を急ぎ、ますます体調を崩す者が増えてしまうではありませんか」


 「自己管理は、それぞれの義務だ。この清明の案では、成果を挙げた者にはそれなりの報酬が約束されている。それこそが労働者達の意欲を……」


 「……すでに兄上の案にそんなに感銘しておられるなら、最初から私の企画書など、提出する意味がなかったのでは?」


 「若様!」


 かなり反抗的な口調だったので、同行していたじいが慌てて清廉を諌めた。


 「兄上は物事の企画運営に、優れた能力をお持ちですから、間違いはないと思います」


 言い過ぎたと反省したようで、清廉は穏かな口調で言い直した。


 「そ、そうだな。両者の利点と難点を、再度比較検討しておこう」


 当主も同じだったようで、一応「検討する」との姿勢を見せた。
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