波音の回廊
Finale~十年後~
 今でも、夢だったのかなと思う。


 ただ……。


 未だにこの指に残った温もりが、夢ではないと私に思い知らせる。


 この海の、向こう側。


 水平線のはるか彼方。


 海底へ沈んだ島。


 水底に消えた愛。


 清廉(せいれん)。


 愛した人……。


 ……。


 私があの不思議な体験をしてから、ちょうど十年目の夏。


 この夏も私は、浜辺の町を訪れていた。


 毎年恒例。


 そして、満月の夜を迎えた。


 私が水城島に足を踏み入れたあの夜と、同じくらいに綺麗に月は輝いている。


 それに導かれるように、私はまた夜の浜辺に佇んでいた。
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