波音の回廊
 「……怒ってる?」


 「何を?」


 「さっきは成り行きで、唇を……」


 「気にしないで。私の時代ではごくありふれたことだから」


 「お前の故郷は……かなり奔放な土地なんだな」


 「そういうわけでは……」


 「私が島の娘にあんなことしたら、即、側女にしなければならなくなる」


 「それも色々大変ね」


 「そして。これも、だ」


 これ?


 ……帰り道、私たちの手は繋がっていた。


 「手を繋ぐだけでも、まずいの?」


 「人前でこんなことをしたら、はしたないと非難される」


 確かに、この狭い島社会。


 どこで誰が見ているか分からない、っていうのもあるだろう。


 しかも次期当主である清廉は一挙手一投足、周囲の注目の的だ。
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