Sweet Lover
「お出かけが延期になってごめんね」

春花さんがハイヒールを脱ぐのを見ながら、切なさを篭めた声で響哉さんが私に言う。

「ううん」

首を横に振った途端、顎を持ち上げられ、唇が迫ってくる。

「社長、それって嫌味ですか?」

春花さんが振り向いたのと、私がキスから逃げ出したのは、ほぼ同時で。

「……社長、本当に彼女、フィアンセなんですか?
 明らかに今、キスから逃げ出してましたけど」


春花さんって、ストレートな質問をぶつけてくる人なのねと、逃げ出しておきながらも私は目が点になっていた。

「人前で、キスするのがちょっと、苦手なだけですっ」

思わずそう言い訳していたのは私だった。

ここで違うっていったら、この美人なお姉さんに響哉さんが取られてしまう気がして怖かったのかもしれない。

だって、普通に考えて、どうみたってこの二人の方がつりあっているもの。

響哉さんが、おや、なんて笑っているけれど気にしないようにする。

「そうなんですか?
 でもきっと、結婚式は全世界に中継されますから、それまでには慣れるようにしておいて下さいね」

業務連絡を告げるかのように、淡々と返される。


私だけが、変なライバル意識を抱いてしまったのかしら、と。
思わず頬が赤らんでしまう。

――っていうか。
  全世界中継って、いったいなんですか?

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