Sweet Lover
私は、ぐしぐしと手の甲で涙を拭いた。

「……どうして、響哉さんが謝るの?」

そんなに痛みを帯びた声で。
何を後悔しているの?

「俺が、マーサの元に現れなければ記憶は封印されたままだったのに……」

ぽつり、と。
響哉さんが小さく呟く。

その表情があまりにも痛々しかったから、私はこれ以上批判する言葉が言えなくなる。

「ごめんね、マーサ」

響哉さんは謝罪の言葉を繰り返す。

その姿は、夕方追いかけた、彼の背中を私に思い出させた。

このまま、また。
私を置いてどこかに行っちゃいそうに見えて。
私は、警戒心を忘れて彼の背中に手をまわす。

「……真朝、ちゃん?」

響哉さんは驚愕を隠さない声をあげた。

「だからって言って、今更いなくなったりしないでよ?
 もう、記憶は閉じられないんだから。
 響哉さんが居なくなったら、私。
 困るんだからっ」
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