Sweet Lover
響哉さんは我に返ったように、私を見つめる。
その唇に思い出したように甘い笑みを乗せて。

「大丈夫。別に痛くないから。数日中には結果が出る」

「そうじゃないのっ。
 どういう意味?
 響哉さんは、ママと……関係があったってこと?」

その言葉を発したとき、砂でも噛んだ様な嫌な感覚が胸の中一杯に広がった。

響哉さんは一際優しく私を見つめて、そっと頬を撫でてくれる。

「違うよ、マーサ。
 誓ってもいい。俺と朝香ちゃんとは何の関係もない。
 ……でも、マーサは今、俺に対して傍にいたくないほどの不信感を抱いているだろう? だから、この際きちんと科学的な裏づけがあった方が、納得してくれると思ったまでだよ」

「違うっ。
 私、響哉さんに対して――」

不信感なんて持ってないもん、そう言いきれない自分が居る。
だって、正体不明――だよ。

響哉さんには分からないことが多すぎる。
傍に居れば居るほど、謎が増えていく。


「だから、ね?」

響哉さんは、淋しさを押し隠すかのように、殊更優しく笑うと、私がまだ手に持ったままの空になったココアのカップをそっと受け取って、手近なところに置いてくれた。

「じゃあ、DNA鑑定のキット、早々に準備しよう」

佐伯先生が呆れがちに言葉を挟み、帰宅していった。
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