Sweet Lover
そのまま混みあってる病院内を進んで、耳鼻咽喉科の受付に先生が挨拶をするだけで、待っているほかの患者さんも居るというのに、私たちはすぐに中に通された。

私が病室に入った途端。

白衣を着たお医者さんが、立ち上がって丁寧に私に向かって一礼した。

……え?

予想以上に仰々しい雰囲気に、私は言葉を失ってしまう。

「お初にお目にかかります。
 佐伯涼太と申します」

いわれて見れば、先生に似ている……かな?
でも、佐伯先生と比べると、すごく真面目そうな印象がある。線もこう、細くてシャープなの。全体的に。

「は……初めまして。私……」

びっくりした私は上手く挨拶も出来ない。

「兄貴、とりあえず彼女の血、止めてやってくれない? 容態はさっき電話で話した通りだから」

助け舟を出してくれたのは付き添ってくれている先生。

「ああ、そうだな。
 えっと。花宮様とお呼びすれば?」

「いえいえ。
 花宮とか、真朝とか。
 なんでも良いんですが、【様】なんて困りますっ」

ああ、駄目。
緊張したのか、興奮したのか。
脱脂綿の先の方にまで血が滲んできちゃった。
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