砂の鎖
私はしばらく、何もできずにその場で真人の背中を見つめていた。



――須藤。俺と付き合ってよ。


頭の中で響いてきたのは黴臭い資料室での真人。
恥ずかしそうに、耳まで真っ赤にしてそう言った真人。


――ずっと見てたんだ。


焦ったようにそう言って、気まずそうに私に背を向けようとした真人。



――亜澄が好きだ。


太陽の様な眩しい笑顔。
そして……


――泣きたくなったら、俺のとこ来なよ……


一緒にいた一ヶ月。私に見せることは殆どなかった真剣な瞳……


思い出せば思い出すほどに苦しいほどに伝わるのは、私を大切にしようとしてくれていた真人の強い想いで……
真人は何も言わず、何も触れず、ただ笑顔で……

それでも、私を見つめ続けてくれていた……


そんな彼の真摯な想いを私は意図せずとは言え利用して、そしてそんな私に、真人は気が付いて尚、微笑んでいた。


「ごめん……」


夜の闇に溶けかけた彼の背中に、聞こえないようにとても小さく呟いた。

謝罪の声と一緒になって、一粒、涙が頬を伝った。
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