砂の鎖
家の前まで着けばいつもと少し様子が違い、私は気が付かれないように静かに自転車を止めた。
人の話し声がしたからだ。
一人は拓真。もう一人は分からなかったが女性の声だ。

ひょっとしたら、拓真が私が帰ってこないと騒ぎ立て近所の人に触れ回ったんじゃないだろうか。
大事になっていたらどうしよう……


「佐々木。俺は……」

「でも須藤主任の昇進は……」


心配になってそっと聞き耳をたてたけれど、聞こえてきた会話の一部は私の想像とは少し違っていて。
よくは聞こえないがその呼び方からどうやら拓真の職場の人らしいことは分かった。

職場の人が家にまでくるなんて。拓真が職場で何かやらかしたんだろうか。

二人の声は切羽詰っていて、少し緊迫しているのが伝わり私は出ていくタイミングを失った。


「……あの件で君を責めるつもりはないよ。ミスはだれにでもあることだ。でも…」

「私は……」


仕事の話をしているのなら、私が邪魔をするものではない。
どうしようかと、門柱の影で立ち止まって様子を伺おうと顔を覗かせた瞬間だった。


「私は、須藤主任が好きなんです」


女が、拓真に抱き付いたのが見えた。
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