砂の鎖
別に不思議なことでは無かったと思う。
当たり前のことだったと思う。


ーー初めまして、あずちゃん。薫さんとよく似た美人で薫さんよりしっかり者なんだってね。


初めて会った時、拓真は幼い私と視線を合わせしゃがみこみ、私を抱きしめたり頭を撫でたりするのではなく握手を求めた。

初めて私を認めてくれた他人。
それは、拓真だった。


私の初恋は、拓真だった。


それでもそれは、子供の淡い想いだった。
例えば男の子が、幼稚園の先生を好きになるような。
ただ、幼い頃の私には教師という存在は“ママを悪く言う大人”の一人でしかなかったから。
だから私を認めて大人扱いして褒めてくれる人に恋心を抱いた。

それは、とても自然なこと。

ママの友人として時々遊んでくれる拓真が私は好きだった。


だからママが四年前、拓真を恋人として家に連れて来た時、私は失恋をした。
ママにも拓真にも非常識だと八つ当たりをして、そうしてママを大切にする拓真に間近で接していれば仕方ないと思えるような、そんな軽い失恋。

がっかりはしたけど、泣きもしなかった。


初恋だったのにな。と思っただけ。

その時は、確かにそれだけだった。
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