砂の鎖
私は翌日、佐伯に再び反省文を手渡した。


私は不機嫌な顔で、佐伯は私の目の前でそれを読み込んだ。
以前の反省文とは違う。反省とは名ばかりのものだった。


私は今度はあの日の横井の発言を正確に近いくらいに思い起こして文章にした。

ママが詰られた事。
私を性的に蔑んだ事。
それらを笑いながら話している言葉に我慢ならなくなり殴ってしまったこと。


私は横井の言葉に腹を立てた。
我を忘れる程腹が立った。

それでも、その理由で腹を立てる私を誰も理解してくれないだろうと思っていた。

そう思い、あの日拓真以外にこの思いを訴えることはしなかった。
書いても意味がないと思い、反省文にも書かなかった。

『事実を言われて怒るお前が悪い』と言われると思っていたからだ。
そしてそう言われても仕方がないと諦めていたからだ。


「須藤。大人になるということはな、自分の弱さと向き合うことだ。一人では生きてはいけないと気が付く事だ」


そうして書いた反省文というタイトルのあの日の汚い言葉の数々を見て、佐伯先生は頷いた。


「確かに親に先立たれたお前には肉親はいない。それでも世の中には肉親に傷つけられる人も、親友や恋人に裏切られる人も多くいる。信じられる他人をより多く見つけるのは誰もが人生で向き合い続ける命題だ」


やけに説教臭いなと思い私は苦笑しながら頷いた。

それでもさすがにこの“反省文”では反省になっていないことは私だって分かっている。

佐伯はきっと、事実を私から吐き出させようとしてくれただけなのだろう。
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