LOVE SICK
***


「川井さん」


昼間は、まだいい。
仕事に忙殺されていれば忘れた振りもできる。
感傷に浸る暇も無いほどに動いていれば涙も出ない。

幸い、斎木さんの結婚式にでたくなくて必死で仕事を詰め込んでいた私は、一人まるで期末の様な忙しさに埋もれている。

斎木さんから逃げる為に打ち込んだ仕事に、今は祐さんから逃げる為に打ち込んでいる。
本当に私は、何の進歩も無い……


「山内さん? なんですか?」


声をかけてきた山内さんの方を見もせずに、デスクの脇に積み上げられた書類に目を通しながらいい加減な返事をした。


「お客様みえてるわよ。打合せブースにお通ししたから」


そんな私に嫌な顔一つ見せないこの人は本当に事務総務の鏡だ。
というか、女の鏡だ。

事務仕事のみならずその美貌と笑顔で社員達を視覚的にも精神的にもバックアップしてくれるんだから。

やっぱりすごい人だと思いつつもご機嫌に声を掛けてきた山内さんを不信気に見た。

< 129 / 233 >

この作品をシェア

pagetop