LOVE SICK
「あれ?」


お茶を淹れに給湯室に寄る山内さんより一足早く着いたブースには人の姿がなかった。
おかしいな。奥を覗きこんだけれど誰もいない。

確かに山内さんは打合せブースに通したって言っていた筈だけど……
会議室の間違いだっただろうか。

山内さんにもう一度聞き直そうと思い振り向こうとした時だった。


「るう」


通り過ぎてしまったブースの出入り口付近の棚の影、思いっきり腕を引かれた。
お客様がいるなら、中央の打合せ用のソファに腰かけている筈だから、そこには注意がいっていなかったんだ。


「え……」


私は完全に、予想外の事態になんの心構えもできる筈が無かった。

それでも、振り向かなくてもその響きだけで分かる。
その姿を見なくても、私はその声だけで心を揺さぶられるから……

それでも、その声に私は振り向かずにはいられない……


「急に避けるのはどうしてだ?」


毎朝見ていた彼の姿を久しぶりに見た。

私が好きな色の瞳がいつもより陰っていて、苦しそうに見えるなんて見間違いだ。

私に避けられて傷ついて居るなんて、絶対に私の都合のいい思い込みだ。

それなのに、その視線に射抜かれて、どうしたらいいのかなんて分からない。


覚悟が出来なくて避けていたのに……
こんな事態に対応が出来るわけも、どうしてこの人がこんなことをするのかも理解出来るわけが無い。
< 131 / 233 >

この作品をシェア

pagetop