LOVE SICK
それ以上言葉が見つからなくなり私は黙り、祐さんも何も言わなかった。


ざわめく周囲の喧騒をかき消すのは静かなピアノのBGM。
邪魔にならず、隣の席の音を掻き消すのには少し小さめの音がいいんだと何処かで聞いた事がある。
音楽も気にならず、周囲の音も気にならない小さな音。
喋っていれば、耳に残らない小さな音。

そんな小さな音が主張する沈黙。

初めてここで二人で過ごしたあの夜も、BGMはピアノの音だったな、なんて。
そんな事を、思った。


「……るう、勘違いだ」


先に口を開いたのは祐さんだった。
そんな言葉に思わず私は彼を見上げた。


今日初めて正面から見た彼の表情は思った通り歪んでいて、綺麗な色の瞳はくすんで見えた。
それに、私の心臓は小さく悲鳴を上げる。

それでも、そんな風に誤魔化せれたくはなかった。
せめて、本当の事をちゃんと言って欲しかった……


名前の無い関係を求めたのは私だ。
それなのに、誤魔化されたことを哀しむのは私の思い上がりだ。
この人が本当のことを話してくれると思ったのは、私の自意識過剰だ。

私たちは、誠実に向き合うべき間柄でも、お互いを知人に紹介できるような間柄でも無い。
とても浅い関係だった……


「私、祐さんが言う事を信じてました……そんな事する人じゃないって……
私……もう、そういうのはいやなんです……」


信じていたなんて、ずるいのは私だ。
そんな事する人じゃないだなんて、私はこの人の何を知っているというんだろう。

何も聞かず、何も話さず、都合悪い事はお互い見ずに、見せずにいた関係。
それが許された関係。

それを求めたのは私の筈だ。

それなのに、信じていたなんて言葉、使うべきじゃない……


それでも私は、以前の様に、知らずに他の人を傷つける様な恋は……もうしたくない。
恋人が、家族が、大切な人がいるのに……その人たちを傷つけてまで縋る様な恋は、もうできない。

私は失う辛さも知っているから……
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