LOVE SICK
「お疲れ様です」


背後から突然聴こえた声に、斎木さんは私からさっと離れた。

確かに、私のデスクに手を付いていたその距離は上司と部下としてのものなら近すぎた。
でも私の指導をしていたとかパソコンのデータを覗きこんでいたとか……色々言い訳はある筈だ。
とっさに距離を取る方が怪しい。

誰もいる筈のないオフィスに響いた声に斎木さんも相当驚いたんだろう。


「……田嶋か。お前直帰じゃなかった?」

「ああ。そうなんですけど……ちょっと忘れ物っていうか、気になる事があって」


そう言って田嶋くんはチラリと私たちの方を見ると、特に気にする素振りも無く自分のデスクの引き出しをあけて何かを物色しはじめた。
あったあった、とか言いながら書類を引っ張りだしながらパソコンを立ち上げる。


「あ。川井さんもう終わる? もう遅いし途中まで一緒に帰る? 鬼の川井も一応女の子だし。それとも斎木さんが車で送ってくつもりだったりするんですか?」


鬼って……失礼だな。田嶋くん。

それにまあ、確かに深夜だけど……
確かに以前はよく斎木さんに送ってもらってたけどさ。

でもこんな時間に帰るのもいつもの事と言えばいつもの事なんだけどな……


「田嶋お前、例の年上の彼女はどうしたんだよ。他の女に優しくしてていいのかよ」

「今から会いに行くんですよ。なんか珍しく遅くまで残業してるみたいで。俺も今からは作れないけどコンビニで弁当買って待っててあげようかと思って。甲斐甲斐しいでしょ。彼女の家、川井さんと方面一緒だしどう?」


田嶋くんは悪びれせずににこにこと笑って言う。

なんか田嶋くんっていつも平和だよな……うらやましい。
でもそうだな。斎木さんに送るとか言われると面倒だし……


「あ……うん。じゃあお願い」


支店長が軽く舌打ちをして、田嶋君の前でその態度はやめてよと思ったけれど……
呑気な田嶋くんは気に留めることもなくメールを送ったらすぐ帰るからとだけ言った。
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