LOVE SICK
「お前は……」


突然、斎木さんは焦ったように私の腕を掴んだ。

例えば、知り合いが道路に飛び出そうとしたら誰だって条件反射で捕まえるだろう。
隣を歩いている同僚が水たまりにはまりそうになったら捕まえるだろう。

そんな、条件反射でしかないように見えた。


「え……」


だから私は思わず周囲を見回した。

飲み屋街の一角だから、酔っ払いがおかしなことをしでかしても仕方ない。
雑多な歓楽街の一角だから、物が落ちてくるとか、飛んでくるとか……不慮の事態があってもおかしくはない。

でも、周りを見回しても人影は無く、変わった気配は何もない。


この人が何も無く触れてくるのは女をその気にさせたい時と相場が決まっているんだけど……
そんな色香は微塵も無く、ただ、焦って捕まえただけに見えた。


彼自身も自分の行動に動揺しているようで、驚いた顔をして私の腕を掴む自分の手をじっと見ていた。

けれど、斎木さんは私の手を離すことなくそのまま俯いた。


「……遊びって訳じゃ、なかったけどな」

「え……?」
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