LOVE SICK
けれど祐さんは、笑顔を見せる。


「ご安心ください。彼女をいつまでも公にできない立場でいさせる気はありませんから」

「は?」


ニコリと悪戯を仕掛ける時の少し愉し気な笑顔を見せる祐さんに、斎木さんの言葉が乱れた。
……え。それってどういう……


「ああ。斎木支店長にとってはそちらの方が安心できないですね。すみません」


私は期待で少し頬が染まったのに、祐さんは気に留める風も無く、祐さんは突然私たちに背を向け路上に向かって手を上げた。


あの、祐さん……あなたの恋人が他の男に肩を抱かれています。
お願いします。もう少しムキになってください……


私の上司ですが、そりゃ仕事上私の立場も色々ありますが……
でも怒ってよ……
自信無くすなぁ……もう……


けれどそんな私の切ない心境を無視して祐さんはタクシーを停めた。

斎木さんは祐さんを挑発してるつもりだった筈だ。
それなのに予想外の祐さんの行動に驚いているみたいだ。


「ああ。この男性をご自宅まで。チケットきってもらえればいいから」

「柏原さんそういう訳には……」


呆然としていた斎木さんも、祐さんとタクシー運転手とのやり取りに我に返って。
制止しようとした斎木さんを促すように、祐さんは開いた後部座席のドアを片手に微笑んだ。


その微笑に私は目を奪われる。
心を奪われる。

それは穏やかで優しい微笑みでも、上面の社交辞令の笑顔でも無い。
上弦の薄い銀色の月を背景に、妖艶な色香を纏う微笑。


……祐さんは、笑ってなんかない。

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