LOVE SICK
シャワーは家で浴びようと思いながら服に袖を通した。
その瞬間、ベッドサイドに置いた携帯が控えめな音でメールの受信を主張する。


(こんな時間に……?)


不信に思いながらそれを手に取れば、ドキリとした。
知らないアドレスだ。


(迷惑メールかな)


わざわざ自分に言い聞かせるようにそう思ったのは、期待しない様にするための言い訳だったなんて、あとから考えれば簡単に分かる。

本当に迷惑メールだと思ったなら、メールは開かず削除しているんだから。
それなのに、そのメールを確認する私。


―――――――――――
from:XXX@・・・・
title:起きれましたか?

おはようございます。
何かあれば連絡下さい。
090-XXXX-XXXX

柏原 祐
―――――――――――

そのメールを見て気が付いたのは、一夜を過ごしてしまった彼の、名前すら私は知らなかったという事。


昨日の朝迄は知らない人だった。
ただ、見たことがある人だった。

それなのに、たった一日で新たに得た彼の情報は多すぎる。


「……変な人」


勘違いなのは分かってる。
それでも、ほんの短い時間をなんだか少しだけ、大事に扱われていたんじゃないかと思ってしまう……

こんな風に足跡を残す癖に、本人は居もしないなんて……なんだかちぐはぐだ。


(勘違いは、しないけどね)


そんなに子供じゃないから、勘違いはしない。
けれど、少しだけその優しさに酔ってる振りをするくらいの余裕はあるらしい。

とりあえず携帯電話をカバンの中にしまってそのホテルをあとにした。
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